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大阪高等裁判所 昭和56年(ネ)1205号 判決

主文

一1  原判決主文第一項中控訴人の被控訴人井上桝市、同奈良県信用保証協会に対する各請求を棄却した部分を取消す。

2  被控訴人井上桝市は控訴人に対し、原判決添付物件目録(一)ないし(五)記載の各土地について、同添付登記目録(一)記載の仮登記に基き昭和五四年三月一六日付代物弁済を原因とする所有権移転本登記手続をせよ。

3  被控訴人奈良県信用保証協会は控訴人に対し、控訴人が前記目録(一)、(二)、(三)記載の各土地について、前項記載の所有権移転本登記手続をすることを承諾せよ。

二  控訴人のその余の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は控訴人と被控訴人井上桝市、同奈良県信用保証協会との間に生じた部分は第一、二審とも同被控訴人らの各負担、控訴人と同被控訴人両名を除くその余の被控訴人ら間における控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  主文第一項2同旨

3  同第一項3同旨及び被控訴人村井紘一は前記物件目録(一)(二)記載の土地につき、同荒木信一は同(三)記載の土地につき、同畑敏美は同(四)記載の土地につき、同中村修は同(五)記載の土地につき、控訴人が被控訴人井上との間で前項記載の所有権移転本登記手続をすることを承諾せよ。

4  控訴人に対し、被控訴人村井は前記(一)(二)の土地を、同荒木は同(三)の土地を、同畑は同(四)の土地を、同中村は同(五)の土地を各引渡せ。

5  被控訴人村井、同荒木、同畑、同中村の反訴請求を各棄却する。

6  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

7  右4につき仮執行宣言

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  主張と証拠

当事者双方の主張と証拠は、被控訴人井上、同村井、同荒木、同畑が当審における被控訴人井上の本人尋問の結果を援用した他は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原判決添付物件目録(一)ないし(五)記載の各土地(以下本件土地という)について、控訴人が同添付登記目録(一)記載の仮登記を、被控訴人井上を除くその余の被控訴人らが控訴人主張のとおり同登記目録(二)ないし(九)記載の各登記を有していることは当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない甲第一ないし第一一号証、原審における控訴人代表者吉長金造、原当審における被控訴人井上の各本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められる。

被控訴人井上は控訴人に対し昭和三六年一月三〇日、控訴人に対するビニール加工材料買掛残代金五八〇万一〇八三円を、同月三一日を第一回として同年五月五日まで七回に分割して弁済すること及び同被控訴人が一回でも右支払を怠れば期限の利益を失い残金を一時に支払うべきことを約し、併せて、右債務の担保として本件各土地について、予約完結権者を控訴人とする代物弁済の予約を結び、その旨の前記仮登記を経由したこと、しかるに同被控訴人は第一回の分割弁済をもしなかつたため期限の利益を失い、同年二月一日前記代金全額につき期限が到来したこと、控訴人は同被控訴人に対し昭和五四年三月一六日、その主張のとおり右代物弁済の予約を完結する旨の意思表示をなし、同被控訴人は控訴人に対しこれを承諾する旨の書面を差入れた。

以上の事実が認められる。

三  そこで、被控訴人井上、同村井、同荒木、同畑、同中村が本訴において援用する前記代物弁済予約完結権の時効消滅の成否について判断する。

1  前記認定の事実によると、控訴人の被控訴人井上に対する前記債権は商事債権であるから、同債権及び同債権を担保する目的で締結された代物弁済予約の完結権は同債権の弁済期である昭和三六年二月一日から五年を経過することにより消滅時効が完成する筋合である。しかしながら、被控訴人井上は、控訴人が代物弁済予約完結の意思表示をした際、異議なくこれを承認しているものと認められるから、時効の完成後、時効の利益を放棄したものというべきである。同被控訴人は、右承認は控訴人の詐欺によるものであるから取消すと主張するが、同被控訴人の供述によつてもこれを認めるに足らず、他にこれを認めるべき証拠はない。また、原審における同被控訴人本人尋問の結果ならびにこれにより真正な成立を認める乙第一号証によると、同被控訴人は昭和四六年一〇月訴外香久山農業協同組合に対し本件(五)の土地を担保に供するに際し、同地に対する控訴人の前記権利関係は消滅している旨の証書を差入れていることおよび同五二年同被控訴人が自己破産の申立をした際控訴人を債権者一覧表に登載しなかつたことが認められるが、右事実はいずれも前記認定を左右するものではない。

2  前記当事者間に争いのない事実に原審証人荒木慶の証言、同被控訴人井上の本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によると、被控訴人井上を除くその余の前記被控訴人らは、控訴人の前記仮登記ののちに本件各土地を取得し、各所有権移転登記を経由したものであつて、控訴人が被控訴人井上に対して有する右予約完結権の消滅によつて直接利益を受けるのであるから、同被控訴人らは控訴人に対し独自に右予約完結権の時効消滅を援用することができる。従つて、また、被控訴人井上のなした時効利益放棄の効力は同被控訴人らには及ばない。

3  従つて、被控訴人井上は右消滅時効を援用することは許されないが、その余の前記被控訴人らの消滅時効の主張は理由がある。

四  以上の説示によれば、控訴人のなした前記代物弁済予約完結の意思表示は被控訴人井上、同奈良県信用保証協会に対する関係において効力を生じているが、その余の被控訴人らに対しては効力を生じるに由なく、従つて、控訴人が本件各土地につき有する前記仮登記は、同被控訴人らとの関係で実体上の原因を欠くから抹消されなけねばならない。

従つて、控訴人の被控訴人井上、同奈良県信用保証協会に対する本訴各請求は理由があるが、その余の被控訴人らに対する本訴各請求はその余の点について判断するまでもなく理由がなく、同被控訴人らの控訴人に対する反訴各請求は理由がある。

よつて、原判決中控訴人の被控訴人井上、同奈良県信用保証協会に対する本訴各請求を棄却した部分を取消し、控訴人の右請求を認容し、控訴人のその余の控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九五条、八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。

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